死者のためのミサ曲、”レクイエム”といえば、モーツァルトのそれですかね。
キリエの中盤、「Kyrie eleison」、主よ、あわれみたまえ~から始まるパートでは、まるでJ・S・バッハの頃へと先祖返りしたかのような、荘厳にして厳格な、絶妙の合唱が奏でられ、圧倒されます。
おそらく”レクイエム”は、これこそが唯一にして無二の名曲と言いたいところですが、フランスの作曲家、フォーレのレクイエムを聴くと、その確信にゆらぎが生じます。
フォーレのレクイエムには、モーツァルトのように、天上の聖歌隊からの、のしかかるような重々しくも荘厳な響きはありませんが、代わりに天界の乙女たちからこぼれ来たように届けられる、甘美にして詩情に満ちた歌声が奏でられ、キリスト教徒でない私ですら、来たるべき神の王国の予感に満たされ、自身があたかも生まれながらの良き信徒であったかのような、陶然としたこころもちにさせられます。
私が好きなのは、歌唱のパートにボーイ・ソプラノの入ったもので、ミシェル・コルボ指揮、ベルリンフィルの演奏で、ボーイ・ソプラノ、アラン・クレマンのものをLPとCDで持ってます。
特に第3曲”サンクトゥス”、第4曲”ピエ・イエズス”が、ボーイ・ソプラノで朗々と歌いあげられると、私の気分は敬虔を通りこして、もはや法悦の域にと達します。
「聖なるかな、聖なるかな、万軍の神なる主よ。汝が栄光は、天と地に満ち満ちたり」て、本当にそんな気分になりますね。