長岡先生は終戦後、戦地から日本にもどって、開業医をされていたとのことです。廃業した病院の建物を借りて、1人だけで医院を開業したころ、その病院で夜ベッドに寝ていると、深夜に幽霊みたいなだれかが自分の体の上に乗っかって来るということでした。
先生が言うには「角さん、ふしぎなものでね、それが来るのはいつも夜中の2時を過ぎてなんですよ。丑三つ時(うしみつどき)とはよく言ったもんですよ」。
それは、寝ている先生の足のほうから、ゆっくりはいあがって来るのだそうです。先生は正体を確かめてやろうと思って、ある夜それが胸のあたりまで上がってきたとき、グワッと抱きついてみたのだそうです。
「それは確かに女性だったですよ。体の感触でわかりました。抱きつくとすぐにスッと消えてしまいましたけどね」。
その次の日、夜中2時を過ぎたころ、先生は寝ないでいて大きな声でこう言ったそうです。「幽霊さん、私はタバコを吸うんだが、この病院のどこに灰皿がしまってあるのかわからんのだよ。持ってきといてくれんか」。
すると翌朝、先生のベッドの横にちゃんと灰皿が置いてあったそうです。それからその幽霊は出てこなくなってしまった、ということです。
用事を言いつけられるのがイヤだったんでしょうかね。
(鉛筆画です。本文とは関係ありません)