絵具の中で最も堅牢と言っていいのが油絵具でしょうね。
初期フランドル派の画家、ヤン・ファン・アイクによって描かれた絵画は、600年の年月を経た今でも、美しさを保ったままですからね。
リンシードオイル、ポピーオイル、テレピン油などで溶かれた絵具が酸化して作る堅牢な皮膜は、描かれた絵を永遠のものとしてくれるという安心感があります。
ただし、この堅牢さはちゃんとした手順で描かれたものでないと保証されないという面があり、特に近代の油絵によくある、気分のままに厚く塗り重ねたような絵の場合、そして特にそれが、下地に描いたものが充分に乾かないうちに上に塗り重ねられたりしていると、乾きによる収縮の速度の違いから、画面にヒビが入るという問題が起きて、絵は堅牢なものとは言えなくなってしまいますからね。
でも、ゴッホなんかの絵は、激情に駆られて描かれているようでありながら、絵具にたっぷりの溶き油を使っているので、画面の状態は大変に安定しているそううですね。
また、安易に素朴派などと呼ばれるアンリ・ルソーの画面も、”油彩画の技術”の著作で有名なグザヴィエ・ド・ラングレ氏によりますと、「ダヴィッドから現在に至る時代を通じて、これ以上に典型的な画家のメティエを見出すことはむずかしい」というほど、その技法は理にかなったものであるようです。
いつまでも残る状態の良い油絵というものは、それなりに気をつかって描かれているものだ、ということですね。
(ヤン・ファン・アイク作 ファン・デル・パーレの聖母)