若いころは、夏の始まりには、まるでこの夏は永遠に続くような思いを持っていて、でも8月も終盤くらいになると、それまで寝苦しい夜が続いていたのが、ある日、急に涼しく感じて、ハタと「この永遠に思えた夏にも終わりはあるんだ」と、あたりまえといえばあたりまえのことなのを、なんだか、予期してなかったことが起こったというような戸惑いを感じてしまって、叶(かな)うことのない永遠の夏へのあこがれと、それが終わることへの悲しみというんですかね、なんとなくわびしい気分に満たされる、なんてことがありましたが、このころは、もう夏の始まるくらいから、「これもまた過ぎ去るのだよな」なんて、妙に先の先を読むような思いが浮かんできて、「そして秋が来て、すぐに寒くなり、冬が来るのだ」なんてね、思ってしまって、「そう言えば、今年の1月だったか、2月だったか、寒い寒いと思っていても、気がつくと桜が咲き、まだ春も始まったばかりなんて思っていると、知らないうちに暑くなって、最近の日本は春かと思えば、もう夏で、むし暑く、空が急に曇ったかと思うとドシャ降りの雨になって、日本はもう亜熱帯だ!なんてことを思うんだろうな、という思いが頭に浮かんだものだった」なんて考えていると、それが現在、夏の始まりのころなのに、もう「やがて、すぐにやって来る冬」のことを考えてしまって、なんだか夏の最中(さいちゅう)なのに、冬がやって来ることへの心配をしたりして、そんなこと考えてると、さらにその先へと一周して、またその先の夏が来ることへ思いをはせたりして…、なんなんでしょうね、「そうしてつまり、時はみるみる過ぎて行くのだよなあ」なんてね、こうなってくると、もう本当にとりとめがありません。
(夏っぽいLP&CDジャケット 松岡直也 / 夏の旅)