私は10代の終わりころに京都に住んでいたことがありまして、左京区の叡山電鉄、元田中駅近くに住んでいたんですけど、よく思い出すのが、東大路(ひがしおおじ)通りを京都大学方面に下る道を、自転車の2人乗りで走ってたことですね。
画家の先輩の伊藤さんが、中古自転車を買ったというんで、その後ろに乗せてもらって、当時は2人乗りしてても、今と違ってそんなに警察はうるさくなかったですからね。
石だたみの道を、さっそうと走ってましたね。
その映像といっしょに思い出すのが、シューベルトのピアノ五重奏曲 ”ます ”の第1楽章ですけど、これは伊藤さんが口笛で吹いていたのかなあ…、口笛のメロディーが浮かんでくるんですけど、伊藤さん、あんまりクラシック知らなかったはずなので、はたしてあの先輩がそんなことするかなあ…、なんて思って。
でも私じゃないですからね、私は自転車で走る後部座席で口笛吹くなんて、そんなチャラいことはしませんからね。
あれはたしか初夏、ポプラ並木の樹間からの木漏れ日を受けて、気分もなんとなく高揚して、それでも、思わず知らず口笛吹いてしまったというような、そんな昭和の青春ドラマみたいなベタで浮かれたマネは、間違っても私はしないですからね。
あの口笛やっぱ伊藤さんだったのかなあ…、それとも空耳かなあ…。
(ピアノ五重奏曲”ます”のLPレコード ドロルツ弦楽四重奏団)